AIによる建物判定、ドローン被害分析、衛星観測——個別の防災テクノロジーは年々進化している。だが2026年の本当の潮目は、これら点在する技術や情報を一枚の基盤の上でつなぐ「データ連携」へと移った。災害対応機関が共通のシステムで状況を共有し、住民が一度出した情報を二度求められない。こうした「デジタル基盤としての防災」が、内閣府の新総合防災情報システム(SOBO-WEB)、520者規模に育った官民共創協議会、デジタル庁のワンスオンリーという形で本格稼働している。本記事は、個別技術ではなくそれらを束ねるプラットフォームの潮流に焦点を当て、建設業・自治体・防災関連事業者にとっての意味を整理する。
1|なぜ今「データ連携基盤」なのか
個別技術の時代から、束ねる基盤の時代へ
これまでの防災DXは、各機関・各事業者がそれぞれ独自のシステムやアプリを構築する「個別最適」が中心だった。だが大規模災害では、被害情報・避難所情報・物資情報が組織ごとにバラバラに存在し、全体像をつかめないことが初動の遅れを生んできた。
2026年に進んでいるのは、この分断を解消する動きだ。共通の情報項目を定め、地理空間情報(地図)の上で災害情報を重ね合わせ、組織の壁を越えて同じ画面を見る。これが「防災デジタルプラットフォーム」という考え方であり、その中核を担うのが内閣府の新総合防災情報システム(SOBO-WEB)である。
用語解説:データ連携基盤
各機関が個別に持つデータを、共通のルール(情報項目・形式)でつなぎ合わせ、横断的に使える状態にする仕組み。防災では「誰がどこで何に困っているか」を組織横断で重ね合わせることを指す。
2|新総合防災情報システム「SOBO-WEB」とは何か
2024年4月運用開始、約1,900機関が共有する地図上の防災基盤
SOBO-WEB(新総合防災情報システム)は、内閣府が令和6年(2024年)4月から運用を開始した防災情報システムだ。各省庁や地方自治体など約1,900機関が利用し、災害情報を地理空間情報(地図)として集約・共有する。
このシステムの肝は、災害対応機関が共有すべき特に重要な情報をEEI(災害対応基本共有情報)として定義した点にある。被災状況などを早期に把握・推計し、災害情報を俯瞰的に捉えることで、被害の全体像の把握を支援する。SOBO-WEBは、防災デジタルプラットフォームの構築に向けた取組の中核を担う位置づけとされている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 新総合防災情報システム(SOBO-WEB) |
| 所管 | 内閣府(防災担当) |
| 運用開始 | 令和6年(2024年)4月 |
| 利用機関 | 約1,900機関(各省庁・地方自治体等) |
| 中核概念 | EEI(災害対応基本共有情報)/地理空間情報での共有 |
※出典:内閣府 防災情報のページ「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)について」リンク
内閣府は、SOBO-WEBを起点とした防災デジタルプラットフォームについて、令和7年(2025年)12月までに構築を完了することを目指すとしている。つまり2026年は、基盤の骨格が一通り整った直後のフェーズにあたる。
※出典:内閣府 防災情報のページ「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)について」リンク
3|防災DX官民共創協議会 — 民間と自治体が同じテーブルに
2022年12月発足、248者から500者超へ
データ連携基盤は、行政だけでは作れない。アプリ・センサー・通信・解析を担う民間企業と、現場を持つ自治体が同じ設計思想を共有する必要がある。その「場」として、デジタル庁の呼びかけで2022年12月に発足したのが防災DX官民共創協議会だ。
協議会のキックオフイベントは2022年12月19日に開催され、官民から239団体(地方自治体64、民間事業者165)が参加した。発足時の構成は248者とされる。
※出典:日経クロステック「防災DX推進の官民協議会が初会合、デジタル庁が呼びかけ239団体参加」リンク
その後、会員は着実に拡大した。デジタル庁の公表によれば、2025年2月時点で513者(民間事業者403・地方公共団体110)に達し、その後も増え続けて500者を超える規模となっている。発足からおよそ2倍に膨らんだ計算だ。
| 時点 | 会員数 | うち民間 | うち自治体 |
|---|---|---|---|
| 2022年12月(発足キックオフ) | 239団体 | 165 | 64 |
| 2025年2月 | 513者 | 403 | 110 |
| 直近 | 500者超 | — | — |
※出典:防災DX官民共創協議会 公式サイトリンク/デジタル庁「Development of disaster prevention DX measures in cooperation with the Disaster Prevention DX Public-Private Joint Creation Council」リンク
協議会には複数のワーキンググループが置かれ、官民データ連携基盤のあり方や、連携させるべきデータ項目などが検討されている。重要なのは、ここでの議論が「業界標準」に近い影響力を持つ点だ。標準化されたデータ項目に対応しているかどうかが、今後の自治体調達やシステム連携の前提になっていく。
4|デジタル庁の「ワンスオンリー」と防災DXの5本柱
住民は一度だけ。情報を二度求めない災害支援へ
デジタル庁が防災DXで掲げる中心概念が「ワンスオンリー」だ。これは、住民が災害時に同じ情報を何度も提出しなくて済むようにし、一人ひとりが適切な支援を受けられる環境を目指す考え方である。避難所での受付、罹災証明、支援金申請などで繰り返される「同じことを何度も書く」負担を、データ連携でなくすことを狙う。
デジタル庁は防災DXの取組を、おおむね次の5本柱で整理している。
- 防災分野のデータ流通促進:住民支援アプリの整備とデータ連携によるワンスオンリーの実現
- 自治体の調達の迅速化・円滑化:「防災DXサービスマップ」「防災DXサービスカタログ」の公開
- 避難所等のデジタル化:マイナンバーカード等を活用した災害対応の高度化(実証)
- 災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT):大規模災害時の現地デジタル支援
- 官民共創協議会との連携:防災DX施策の展開
※出典:デジタル庁「防災分野におけるデジタル化の取組」リンク
要点:なぜ事業者に関係するのか
「防災DXサービスカタログ」に掲載されることが自治体への入口になり、ワンスオンリーを支えるデータ連携に対応できるかが選定の分かれ目になる。基盤に「つながる」設計が、参入機会そのものになりつつある。
5|2026年設置予定の防災庁と、基盤の司令塔機能
平時から復興までを束ねる「司令塔」へ
こうしたデータ基盤の動きは、組織面でも後ろ盾を得つつある。政府は、平時から復旧・復興までの一貫した司令塔機能を担う防災庁の設置に向けた準備を進めている。「防災立国の推進に向けた基本方針」が令和7年(2025年)12月26日に閣議決定され、設置に関する法案も令和8年(2026年)3月6日に閣議決定された。
※出典:内閣官房 防災庁設置準備室「防災庁設置準備について」リンク
本記事の主題は防災庁の人員や予算といった組織論ではない。注目すべきは、SOBO-WEBを中核とするデータ連携基盤・官民共創協議会・ワンスオンリーという「横串のデジタル基盤」を、平時から一貫して運用する司令塔が生まれる点だ。これまで内閣府・デジタル庁・各省庁に分散していた取組が、一つの軸に束ねられていく方向にある。
6|建設業・自治体・防災事業者が今やるべきこと
「個別に作る」から「基盤につながる」への発想転換
データ連携基盤の時代に、現場の事業者・自治体が取るべきアクションを3点に整理する。
- 標準化されたデータ連携への対応を確認する:自社のシステムやサービスが、官民共創協議会で検討される共通データ項目・形式に対応できるか。「自前で完結する」設計から「基盤につながる」設計への転換が、今後の調達・連携の前提になる。
- カタログ・マップへの掲載と参入機会の検討:防災事業者は「防災DXサービスカタログ」「防災DXサービスマップ」への掲載が自治体への入口になる。協議会への参加も含め、500者超のネットワークに身を置く意味は大きい。
- ワンスオンリーを前提とした業務設計:自治体・施設管理者は、住民に同じ情報を二度求めない運用へ。避難所受付や被害申告の業務を、データ連携を前提に見直しておくことが、本番での初動を左右する。
個別技術の優劣を競う段階から、「いかに基盤につながるか」を競う段階へ。2026年は、その転換が制度・組織・データの三方向で同時に進む年になる。
まとめ
この記事のポイント
- 2026年の防災DXの潮流は、個別技術ではなくデータ連携基盤・デジタルプラットフォームにある。
- 内閣府のSOBO-WEBは2024年4月運用開始、約1,900機関が地図上で災害情報を共有する基盤の中核。
- 防災DX官民共創協議会は2022年12月発足、500者超(2025年2月時点で513者)に拡大し、データ標準化の議論をリードする。
- デジタル庁のワンスオンリーは、住民に情報を二度求めない災害支援を目指し、カタログ・D-CERT等5本柱で推進。
- 2026年設置予定の防災庁が、これら横串の基盤を平時から束ねる司令塔となる。
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WiZNAVI 編集部
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